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吉村・藤井研究室
山田研究室

Simulation And Virtual Environment

東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻
東京大学人工物工学研究センター

4.1. 非定常音場のハイブリッドシミュレーション

キーワード:

非定常音場、騒音伝播、波動方程式、幾何音響、虚像法、有限要素法、境界積分方程式

近年の、そして今後も続くであろう計算機性能の向上は、従来では不可能であっ たような、より現実的で大規模な計算機シミュレーションが可能性を広げてい ます。しかし、当然ながら、現在利用可能な計算機資源は無限ではなく、その 限られた計算機資源においてより大規模なシミュレーションを行うために、 計算アルゴリズムに対する新たな工夫が今後も必要とされます。

私たちは屋外の音響伝播問題を対象として、より大規模な数値解析を可能とする 計算アルゴリズムの可能性を探っています。 計算機を用いた音響解析手法は二つに大別されます。 一つは幾何音響解析と呼ばれる、波動の粒子性に着目した簡易解析です。 これは音波と同じ波動現象である光学の分野ではRay Tracingとして知られる 手法によく似たものです。 もう一つは、屈折、回折といった音波の波動的性質を考慮する波動的解析手法です。 幾何音響解析 は比較的計算量が少なく大規模な解析が可能であるものの、回折、屈折といった 波動性を考慮するのは理論的に限界があります。また、波動的解析手法では、波 動性を考慮した解析が可能である反面、問題の規模が大きくなったり音波の周波数が高 くなるにつれ、計算量は急激に増加します。したがって波動的解析の解析対象は 比較的小規模、低周波な波動現象に限定されてしまいます。

そこで私たちは、幾何音響解析と波動的解析の特徴を活かしてそれらを効果的に 融合するハイブリッドシミュレーションを考案し、その有効性を検証しています。

波動的解析の代表的なものとして、有限差分法、有限要素法、 境界要素法が挙げられます。私の研究は複雑な形状を持つ体系の 非定常な音場解析をターゲットとしていますので、 最も適していると思われます有限要素法を採用しました。 さらに、この有限要素法との相性を考慮して、 幾何音響解析手法として虚像法(図1参照)を採用しました。

ハイブリッド化にあたって、回折、屈折という波動性はどのような状況で 顕在化するかということに着目しました。波動性が顕在化するのは障害物の 存在や空気などの媒体の性質の変化によって波の伝わり方が変えられる空間領域です (このような領域を波動的領域と呼ぶことにします)。 逆にいうと、障害物から十分に遠く、媒体が均質であるような (非波動的)空間領域では、回折、屈折といった現象は無視できることになります。 このことを利用して、非波動的領域では虚像法を、 波動的領域では有限要素法を適用することにより、 計算コストを大幅に減らしながら回折、屈折といった波動の重要な性質を考慮した 非定常音場解析が可能になります。

さらに、障害物が複数ある場合、各障害物の周囲をそれぞれ別々に有限要素法 で解くことができれば計算時間の大幅な短縮につながります。図2の計算結果 を参照してください。この図は、図の左端中央に波源がある場合の計算結果を コンター図にしたものです。ここで、図中FEMとして示されている2つの矩 形の内部が有限要素法によって計算した結果です。それらの矩形の内部にある 白い線が障害物として設定されています。図に示されているように、それぞれ の矩形の内部にある障害物によって波動が反射、回折するしながら伝搬してい く様子が見て取れます。23.5msのときの図において左の障害物における回折波 が、37.5ms時には右の障害物で反射、回折する様子が表現できています。これ は、一方の解析領域における計算結果を考慮して、他方の計算のための境界条 件を算出することによって実現できます。その境界条件の算出には、 境界積分方程式を用いています。また、23.5ms時の図中Aで示され た波面現実には観測されない計算誤差であり、今後、計算精度の向上のために アルゴリズムの改善の必要があることを示しています。

虚像法
図1: 虚像法
パンテオンの変形図
図2: 複数領域に有限要素解析を適用した計算の結果。 各時刻における波面の伝搬を速度ポテンシャルのコンター図で示している。 図中FEMとして示されている矩形内が有限要素法によって計算した結果であり、 その他の領域は、境界積分方程式により計算した結果である。
発表論文