7.4. 確率論的手法による人工環境の安全とリスク評価
私たち人間が生み出す人工環境は、私たちに多くの便益をもたらす。 しかし、一方で、その存在が人間や自然環境へ少なからずのリスク(危険度) (Risk)を生み出す。たとえば、身近な乗り物である自動車は、 遠方への移動手段として多くの利益をもたらす反面、交通事故は後をたたず、 また、そこから生み出される廃棄物は、環境リスクを増大させる。 また、巨大人工物の典型である発電所は、電力を生み出し、現代社会の基盤となっているが、 一方において、そこで発生する事故は社会的リスクを生み出し、 また、廃棄物やCO2などは環境リスクを増大させる。
人工環境に関する従来の設計や安全性評価は、すべての関連因子を決定論的 (Deterministic)に決めながら行われる。 現実の人工環境が受ける荷重履歴の予測値ないし設計値からのずれや強度のばらつきに起因する 不確実性(Uncertainty)は、すべて安全率(Safety factor)の中で考慮される。 このような決定論ベースの評価では、各因子をひとつひとつ保守側(Conservative) に見積もりながら積み上げて最終的な判断を下す。 たとえば、外荷重としては起こりうる最大の値を想定し、強度はあり得る最小の値を想定する。 このため、最終評価結果には過剰な保守性が取り込まれることとなり、 合理性という観点から大きな課題を残している。 このような問題を解くアプローチとして確率論がある。つまり、 関連因子のばらつきを確率密度分布関数として考慮した上で、 その合成によって破損確率やリスクを定量的に論じるのである。
本研究室では、確率論的手法、特に破壊力学(fracture mechanics)に確率論を 取り入れた確率論的破壊力学(Probabilistic Fracture Mechanics : PFM) とそれを用いた定量的リスク評価に関する研究を行っている。