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吉村・藤井研究室

Simulation And Virtual Environment

東京大学 大学院工学系研究科 システム創成学専攻

複雑系とマルチエージェントシステム

Keywords: 社会シミュレーション, 複雑系, 創発, マルチエージェントシステム, 知的エージェント

複雑系とは

巨大なシステムを理解しようとするとき、そのシステムを構成する要素に分解し、分解された要素を詳しく観察することによってシステム全体を理解しようとする手法 (還元論的アプローチ) が通用しない場合があります。例えば社会を構成する人間…を構成する分子・原子の挙動が理解できても社会システム全体の挙動は理解することはできません。全体の挙動が個々の要素に分解できないシステムのことを複雑系 (complex system) と呼びます。

還元論的アプローチと複雑系の考え方

図1 還元論的アプローチ (左) と複雑系の考え方 (右)

複雑系の特徴

複雑系を知るためには、個々の構成要素の局所的な相互作用に着目する必要があります。構成要素の相互作用ルールが比較的単純なものであっても、全体としてみると非常に複雑な現象が生まれます。これを創発 (emergence) といいます。さらに、創発されたシステム全体のマクロな性質に適応するかたちで構成要素のミクロな挙動が変化します。

複雑系の挙動

図2 複雑系の挙動

マルチエージェントシステム

有限要素法で解析される物理現象が微分方程式で記述されるのに対し、複雑系の中で創発される現象は一般的に微分方程式によって記述できません。そこで、私たちは複雑系をシミュレートするツールとしてマルチエージェントシステム (Multi-Agent System: MAS) を利用しています。マルチエージェントシステムの中では、複雑系を構成する要素をエージェントとして扱います。

エージェントの自律性

エージェントとは、環境 (周囲の状況) を知覚し、自分の意思決定によって行動を起こし、環境に影響を与えることのできる自律的行動主体を指します。この中で、環境の変化に対して適応的に行動できるエージェントは特に知的エージェントと呼ばれます。

エージェント

図3 エージェント

マルチエージェントシステムにおける創発

環境の中にエージェントをたくさん配置するのがマルチエージェントシステムであり、環境はエージェントの行動によってさまざまに変化します。エージェントは変化した環境を再び知覚し、意思決定を行います。この繰り返しにより、環境を通じたエージェントどうしの相互作用が生まれます。そのような相互作用の総和として複雑な現象が創発されます。

エージェント

図4 マルチエージェントシステム

解析対象となる複雑系現象の例

マルチエージェントシステムでモデル化される現象には、例えば

などがあります。

図5 Boidsのシミュレーション: Boidsは1987年にRaynoldsによって発表された典型的なマルチエージェントシミュレーションで、「鳥もどき」を意味するBirdoidを語源としています。個々のBoidには「群れの中心に近づく」、「他のBoidに近づきすぎた場合には離れる」、「周囲のBoidと移動速度を合わせる」という3つの単純なルールしか与えていませんが、群れの形成や分裂など、複雑な現象を観察できます。